川崎総合法律事務所

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2012年08月 アーカイブ

2012年08月01日

若松弁護士の「勾留理由開示請求をしたら即時釈放された事案」が刑弁FLASH第67号(2012.6.29刊行)に掲載されました。

以下掲載文を紹介します。

第1 事案の概要
本件は、男性が、深夜公道で陰部を露出して自転車にまたがっていたところを警察官に現認され、現行犯逮捕された事案です。男性に前科前歴はなく、住居が定まっている上に、定職にも就いていました。そのため、男性は、初めての逮捕に動揺しつつも、注意を受けてすぐに家に帰れるだろうと考えていました。
 しかし、身柄拘束3日目に勾留決定が出されたため、男性は、当番弁護士の派遣を要請し、私が、同日接見に行き、受任して弁護人となりました。

第2 勾留決定に対する準抗告申立
本件は、公然わいせつ罪の現行犯逮捕事件で、隠滅する証拠はありませんし、男性は事実を認めていました。また、男性に前科前歴がないこと、定職があり妻と幼い子どもがいること、通行人が多くはない時間帯での犯行であったことなどから、私は、男性が処分保留で釈放されるか、罰金刑が言い渡される事案ではないかと考えました。
 そこで、私は、男性に対し、勾留決定に対して準抗告の申立ができること(ただし、認められる可能性は高くはない)、おそらく罰金刑が言い渡されるので何もしなくても勾留満期日(勾留10日目)には釈放される可能性が高いことを伝えました。その上で、私は、男性に対し、それでも勾留決定を争うか聞いたところ、初めての身柄拘束で留置場の中での生活が怖いため、1日でも早く出たい、留置されている人達も怖くてたまらない、ということだったので、私は、勾留決定に対する準抗告の申立をすることに決めました。
 私は、男性の妻と面会し、上申書と身柄引受書を作成し、身柄拘束5日目(拘留3日目)の午前9時30分頃、裁判所に準抗告の申立をしました。

第3 準抗告の申立に対する裁判所の判断
 裁判所は、その日のうちに棄却の決定を出してきたのですが、その内容があまりにもひどく、納得しがたいものでした。
 裁判所は、「被疑者の適正な終局処分の判断をするためには、犯行に至る経緯・動機や被疑者の生活状況等の解明が必要と認められる。そうすると、これらの諸点が十分解明されていない現段階においては、被疑者が関係者に働き掛けるなどして、本件の罪体や重要な情状事実について、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由が認められる。また、被疑者の身上や生活状況に加えて、本件が法定刑として懲役刑も定められている犯罪であることなどに照らすと、被疑者が逃亡すると疑うに足りる相当な理由も認められる。」と判断し、準抗告を棄却しました。
 単独で陰部を露出するという公然わいせつを行っただけであるにもかかわらず、「関係者に働き掛け」て罪証を隠滅するおそれがあると述べ、かつ「法定刑として懲役刑が定められている」から逃亡のおそれがあるというのです。
私は、準抗告の申立が棄却されることについては、ある程度諦めに似た気持ちをもっていましたが、裁判所の決定理由があまりにも理不尽であったため、この決定を放置しておくことができないと考えました。

第4 勾留理由開示請求
 準抗告の棄却決定に対しては、特別抗告をするという方法もありましたが、私は、書面で申立をしたところで、また棄却されるだけだと考え、別の方法を検討しました。
勾留理由開示請求をしてはどうかという意見も聞いたのですが、私には意味があるとは思えなかったので、どうしたものかと悩んでいたところ、Defenseの「勾留理由開示請求したら即釈放された例」というコラムを読み、勇気をもらいました(改訂版27頁)。
 そこで、私は、身柄拘束10日目(勾留8日目)に男性と接見し、勾留理由開示請求の説明をしました。私が、男性に、「公開の法廷で公然わいせつという恥ずかしいことを明らかにされてしまうけれど良いか」「必ず釈放が早まるものでなく、早まっても1日だがよいか」と尋ねると、1日でも早く出られる可能性があるのであればやって欲しい、ということだったので、勾留理由開示請求をすることに決めました。
 私は、身柄拘束11日目(勾留9日目)の朝、裁判所に勾留理由開示請求書と求釈明書を提出しました。そうしたところ、約30分後に検察官から「勾留理由開示請求との関係で本日釈放します。」とい連絡が入りました。男性は、その日の午前中に処分保留で釈放され、私は、裁判所からの要求に従って、勾留理由開示請求を取り下げました。

第5 その後、雑感
 男性の勤務先の上司は、被疑事実を知った上でしばらく黙ってくれていたのですが、結局会社の知るところとなり、男性は、会社を辞めさせられてしまいました。今回の事案は、逮捕されたとしても勾留されるべきではない事案だと思います。男性が勾留されていなければ、職業を失うことにもならなかったと思います。勾留することによって、その人の人生、社会的地位を奪ってしまうと言うことを検察官、及び裁判所にはもっと深く考えて欲しいです。

2012年08月31日

刑事法における時効制度の大改正について(弁護士 高柳 馨)

1 刑事関係の時効には,刑の時効と公訴の時効があります。
刑の時効というのは、裁判で刑の言渡が確定した後、刑の執行を受けないことによる時効です。判決確定後、被告人や受刑者が逃走したときに問題となる時効です。公訴の時効というのは、犯罪後一定期間が経過することにより刑事訴追(公訴)が許されなくなるという時効です。一般に言われる時効は、この時効です。

2 刑の時効は、刑法32条に定められていますが、平成22年4月に大きな改正がありました。次のように、改正されました。下線部が改正により,変更された部分です。
  刑法32条 時効は、刑の言渡しが確定した後、次の期間その執行を受けないことによって完成する。
    一  無期の懲役又は禁錮については30年
   二  十年以上の有期の懲役又は禁錮については20年
   三  三年以上十年未満の懲役又は禁錮については10年
   四  三年未満の懲役又は禁錮については5年
   五  罰金については3年
   六  拘留、科料及び没収については1年

上記の下線部は,改正前は、次のようになっていました。
   一 死刑については30年
   二 無期の懲役又は禁錮については20年
   三 十年以上の有期の懲役又は禁錮については15年

3 公訴の時効は、刑事訴訟法250条に定められていますが、平成22年4月に大きな改正がありました。次のように、改正されました。下線部は,改正により変更された部分です。
  1項 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
   一 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については30年
   二  長期20年の懲役又は禁錮に当たる罪については20年
   三  前2号に掲げる罪以外の罪については10年
  2項 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
   一  死刑に当たる罪については25年
   二  無期の懲役又は禁錮に当たる罪については15年
   三  長期15年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については10年
   四  長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については7年
   五  長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については5年
   六  長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については3年
   七  拘留又は科料に当たる罪については1年

   改正前は、人を死亡させた罪であるかどうかを問わず、2項と同じでした。

4 このような改正が行われた理由を考える前に、刑事法における時効制度の存在理由を考えてみましょう。
 従来から、次のような二つの考え方がありますが、普通は,両者をあわせたものが時効制度の存在理由とされています。
(1)実体法説
  時の経過とともに、被害者の感情が癒され、社会の復讐感情が減少し、犯人に対する再教育の必要性が減少することで、国家の刑罰権が消滅する。
(2)訴訟法説
  時の経過とともに証拠(証拠物、証人)が散逸し、真実発見が困難になり、公訴権が消滅する。

5 それでは、平成22年に改正された理由を考えてみましょう。
 平成12年起こった世田谷一家殺害事件をご記憶の方も多いと思います。これは、両親と8才の長女、6才の長男が殺害された事件で、未だに犯人が捕まっておりません。このような鬼畜にも劣る罪を犯した極悪犯人に対し、時効により処罰を免れることを認めて良いのか・・・というのが,大きな世論となりました。この世田谷一家殺害事件の遺族らが中心となって結成された「殺人事件被害者遺族の会」(宙【そら】の会)、また、山一証券代理人弁護士夫人殺人事件(平成9年)の遺族である岡村 勲氏、光市母子殺害事件(平成11年)の被害者遺族である本村洋氏などが中心となって設立された「全国犯罪被害者の会」(あすの会)などが大きな世論を喚起し、マスコミを動かし、国会も動かして、法律が改正されたのです。
 これらの被害者の会は、時効については,概ね、次のように主張しています。
  ① 時が経過しても、殺人事件の遺族の被害者の感情は癒されない。
  ② 最近のDNA鑑定などの捜査技術が大幅に進歩し、犯人のDNAが特定されている事件では、犯人を特定する証拠物はなくならない
  ③「冤罪の問題」についてもDNA鑑定により他人を犯人と誤る確率は小さい・・・ など。

6 これに対して、日本弁護士連合会などは、改正法には問題があるとしています。私なりにまとめると,以下のようになります。
(1)まず、殺人事件についての時効がなくなることについては、次のような問題があります。
  ① DNAが特定されない事件など証拠が乏しい事件について、時効がないために、冤罪が起きる可能性がある。例えば、40年前の殺人事件について、目撃者が現れて捜査が行われた場合、犯人と名指しされた人にとり40年前のアリバイ立証などはほぼ不可能である。
  ② 警察は、殺人事件が起きた場合、ずっとその捜査を行わなければならないことになる(関連の証拠物を廃棄することができず、少なくとも形式的には捜査員をおいておかなければならない)。
(2)また、改正法は、改正法施行(昭和22年7月)前に犯した罪で施行時に時効が完成していない犯罪についても適用されることになっていますが、これについては、次のような問題があります。
 例えば、改正法施行時にあと1ヶ月で時効になる殺人事件(24年11ヶ月前の事件)の犯人についても、改正法は適用されて、公訴時効がないことになりますが、改正法施行時に時効が完成した事件と比べるとあまりにも不均衡となります。憲法39条「何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。」(事後法・遡及処罰の禁止の原則)に実質的に反するという意見もあります。

7 最後に諸外国の公訴時効の制度を概観してみましょう。
 まず、アメリカでは、連邦法により死刑に当たる罪は公訴時効がなく、それ以外の罪については、テロ犯罪、未成年者への犯罪などの例外を除き、一律5年の公訴時効があります。イギリスには公訴時効という制度はありません。フランスでは一般の重罪は10年で時効が完成しますが、集団虐殺など人道に対する犯罪については公訴時効がありません。ドイツでは、殺人のうち特に重い事案の公訴時効は30年で完成しますが、民族謀殺、殺人嗜好など特定類型の殺人については公訴時効はありません。

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