川崎総合法律事務所

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2012年05月 アーカイブ

2012年05月31日

本田弁護士の「ハーグ条約の問題点」が「人権かながわ」に掲載されています。

本田弁護士が所属しております、横浜弁護士会人権擁護委員会の「人権かながわ」という冊子に本田弁護士の「ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事面に関する条約)の問題点」が掲載されております。
以下掲載文を紹介します。

ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事面に関する条約)の問題点

1.はじめに
 最近「ハーグ(条約)」という言葉をよく耳にするようになりました。ハーグ陸戦条約を始め、オランダのハーグで締結された条約は、いくつもありますが、この原稿を書いている2011年(平成23年)12月25日の時点においては、ニュース等の用語で、ハーグ(条約)といえば、「国際的な子の奪取の民事面に関する条約 」のことを指しますね。同条約は、子の利益の保護を目的として、親権を侵害する国境を越えた子どもの強制的な連れ去りや引き止めなどがあったときに、迅速かつ確実に子どもを元の国(常居所地)に返還する国際協力の仕組み等を定める多国間条約で、ハーグ国際私法会議にて1980年10月25日に採択され1983年12月1日に発効しています。2011年7月28日現在の同条約の加入国は、欧米を中心に86か国ですが、報道によれば、アメリカ合衆国やフランスなどの加入国のからの強い要請を受け、それまで非加入であった日本でも2011年5月に政府は加盟方針をうち出し(閣議了解について、http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2011/0520%20Hague%20Convention.pdf)、現在国内法制との整合性調整等の条約締結へ向けた準備が進められています(具体的には、中央当局の在り方については外務省で(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hague/index.html)、また、子の返還手続の関係については法務省で(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi03500013.html)、それぞれ詰めの作業が行われています。)。また、このような政治情勢の中、日弁連も、ワーキンググループを設置して検討を重ね、2011年2月にはハーグ条約に対する日弁連としての意見を取りまとめ、公表しています(http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2011/110218.html)。
 以上のような状況ですので、この原稿では、現在進行中の未だ確定していない返還手続に関する諸問題、たとえば、管轄の家庭裁判所をどこに置くのか、子に対する執行手段として現実にどこまでを認めるのかといった各論的な問題に立ち入るのは避け、上記条約の持つ、本質的な問題点について視点を提示するに止めたいと思います。

2.条約起草当初の想定の誤り
 そもそも、ハーグ条約が起草された当時想定されていたのは、国際結婚が破綻に瀕した際に、自己に有利な裁判を得ようと図る父が、母の手で養育されてきた子を外国に連れ去り、それまで育った環境養育親から引き離してしまうという事態で、このような場合に、子をとりあえず早期に元の生活に戻すことは、合理的で十分に意味があると考えられるところでした。しかしながら、その後、条約が発効してみると、 実際には、 子を海外に連れ出すのは母親であることの方が多いということが知られるようになりました。たとえば、2003年の調査でも締約国の返還に関する事例の中では、68%が母親によるものでした。日本では、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律が議員立法によって成立したのが比較的遅く2001年(平成13年)でしたが、ハーグ条約が起草された1980年当時には、諸外国においても、かような配偶者からの暴力や、子どもに対する虐待の問題に関する社会的な認識が進んでいませんでした(国連が子どもの権利条約を採択するのは、1989年です。)。

3.「 配偶者からの暴力・虐待防止」という視点の重要性
 想像してみてほしいのですが、フランス人と結婚して、パリ郊外に住んでいる日本人が、その子どもを連れて、突然日本に帰ってくるというような事態が発生したような場合、それだけで、すでに何か普通ではない、よほど止むにやまれぬ特殊なことが当該の家族に起こっていると考えるのがむしろ合理的ではないでしょうか。そう考えると、かかる事案の奥に家庭内での暴力や虐待など看過できない事態の発生も想定し、自国民を保護するべき政府において、その生命や身体の安全を損なうことのないような手がとられるべきことが本来必要な筈です。この点、ハーグ条約においても、子の利益を確保するために、いくつかの返還拒否事由が定められており、たとえば、13条1項bでは、「子の返還が、身体もしくは精神に危害を加え、又はその他許し難い状況に子をおく重大な危険があること」といった事情のある場合には、子の返還は認められないこととなっています。仮に、条約の加入が政治的には既定の路線であるとしても、上記のような配偶者からの暴力や子の虐待防止といった観点からする現行法の体系を無にしないような形で国内法が整備されなければなりません。なぜなら、そこで示される価値判断には、むしろ数の上では圧倒的に多い日本人同士の国内における子を巻き込んだ離婚手続にも影響を及ぼすことが(いくら既定を設け国内と国外を峻別したとしても、)避けられないことは明らかだからです。

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