裁判員裁判における情状弁護の方法について(弁護士 大橋賢也)
横浜弁護士会刑事弁護センター発行『刑弁センターニュース№1』に大橋弁護士の特集が掲載されました。
1 平成21年5月21日から始まった裁判員裁判は、開始からもうすぐ3年経つが、日を追うごとに裁判員裁判経験会員が増えている。平成24年度(4月1日からの担当予定分)の データによれば、裁判員裁判の担当者名簿には本部156,横須賀27,川崎81,相模原33,県西57,この他、協力名簿,応援名簿,二人目以降選任名簿にそれぞれ40~50名 前後の登録がなされている。しかし,他方で,裁判員裁判は,対象事件が重大事件に限られていることや,これまでの刑事裁判とは大きく異なる点が多々あることから,抵抗を感じる会員も少なくないようである。
弁護士会としては、組織的に裁判員裁判対策を行っている検察庁と対等に戦うため,できるだけ多くの会員に裁判員裁判を経験していただき、会全体で経験値を上げていく必要があると考えている。
2 今回は、情状弁護に焦点を当てることとする。というのも,裁判員裁判の対象となる事件も,その他の事件と同様に,多くは自白事件で,情状弁護をすることになる。ところが,現在刊行されている裁判員裁判関連の書籍は,多くが否認事件における弁護技術が記されており,情状弁護に焦点を当てた書籍は比較的少ないからである。
裁判員裁判の場合,市民が裁判官と共に判断者に加わるため,職業裁判官を相手にした従来の情状弁護のままでは,裁判員に伝わりにくく,更に言うと反感を買ってしまうことにもなりかねないという点に難しさがある。そこで,裁判員裁判における情状弁護は,どのような点に注意して行うべきなのかについて,刑弁センター委員にアンケートを実施してみたところ,次のような回答があった。
A会員 「従来のように,何でもかんでも被告人に有利になりそうな情状を拾い上げるのではなく,優先順位を付け,その高いものだけを主張し、残りは切り捨てるなどの工夫が必要だと思う。優先順位の付け方は,裁判員の共感を得られるかどうかで判断すべき。」
B会員 「情状事実は絞り込むべきだと思う。それを前提に,今まで弁護人が良い情状だと思って当然のように述べていたこと(反省している,若い,被害弁償が出来ている,前科がない,など)は,なぜそれが良い情状になるのかについて,説明が必要になると考える。」
C会員 「裁判員裁判の情状弁護では,『極度に刑事弁護人を嫌う裁判員がいる』という意識を持った方がよい。そこで,弁論では,『被告人がしたことは確かに悪い。悪いからこそ,刑罰を受ける必要がある。ただし,刑罰には幅がある。幅があるのは色々な事情をくみ取って評価するためである。被告人にはこういう良い事情もある。こうした事情がない人に比べれば,刑罰を軽くすべきである。』などと説明した方がよいのではないか。」
3 以上は,裁判員裁判を経験した刑弁センター委員が感じている,裁判員裁判における情状弁護のあり方である。
裁判員裁判は,まだ始まったばかりであり,全ての関係者が色々模索している最中であるため,何が正解であると言うことはできない。今後もできるだけ多くの会員が,裁判員裁判を経験し,その経験を共有することで,よりよい弁護活動をすることができるよう,横浜弁護士会全体で研鑽を積んで行く必要があり,刑弁センターニュースを通じてそのための情報発信を行っていきたい。